少年は魔物を恐れなかった 彼は既に無数の異形に遭った 

闇に住まう者たちもまた 産まれたばかりの英雄を恐れなかった 


若者が恐れたものは唯一つ 脅すように翳された松明 

人であれば その強大な力を知る 

魔獣が恐れたものは唯一つ 爛々と輝く聖なる剣 

魔であれば その強大な力を知る 


彼らは 互いに 魅入られたように 立ち尽くした 

少年は 禍々しい瞳に映る自分の姿が 揺らぐのを感じた 


(奴らが術をかけたのか? いや、違う……) 



楕円に開かれた門から 森厳な女が現れ かれに手を差し伸べる



女の半身は 墓を暴かれた古の王の如く 


時に晒され 夜に白く浮かんでいた 



鍵の所有者よ 


廻る車輪が加速し 全てを蹂躙する前に 


楔を打ちなさい


黒き炎を煽る風 その源を断つのです! 




女の眼窩 底知れぬ闇に 瞬いた光  

少年は自らの使命を 悟った 



(これは―― 『鍵』 やつらに渡してはならない) 



頷くかわりに 剣を強く握ると 女は消えた 





後にかれは述懐する 

一房の髪に 死と生とが隔てられた 女の顔を 


叡智を宿した紫の瞳よりも 抜け落ちた【眼】にこそ 

見られている と 感じたことを 






To another anecdote