「導師、お考えを改められては如何です。」
 二つの長い影が着かず離れず、幽玄に紫がかった石の敷き詰められた床を並んで滑ってゆく。不可思議な同色の円柱がその間を遮る一瞬だけ、別つ事が出来るような親密さを影は持っていた。

「あれは神殿に祀るものではない。されど時と塵に埋もれるままにおくは愚の骨頂。」

「最もですが、アルナザの刻に然るべき儀式を執り行わないのであれば――」

「ならぬ。」

 ここ数週間の間に幾度となく繰り替えされ要望を、緩やかに歩みながら老魔導師はすげなくあしらった。

「何故。」
 尚も若き弟子は食い下がる。その細い面と着衣を許されたローブとがどれ程釣り合わぬものか知る者は少ない。

「掟だからだ。」

「掟! 先ず意味の無い因習や愚かな迷信を疑え、そう教えたのは貴方でしたね?」

 ブレイ導師――僅かでも魔道を心得るなら古代の神々よりも崇拝せずにはおれぬ、生ける伝説である老魔導師は立ち止まり、威厳を保ちながら振り返った。

「如何にも私だ。君は優秀だ。一度授けた知識は二度と忘れない。同じ問いを繰り返すのは君らしくない。」

「繰り返しますよ、何度でも……望む答えを導き出す迄は。」

「無駄だ。ロンガの石臼引きから此処までのし上がったのにも関わらず欲深な事よ。否、その貪欲さこそが私の目に留まったのだがね……。ヴィカス、時間は有益に使うのだな。君が幾ら若いと言っても……!?」


 若き魔導師はブレイの背に瞬時に回り込み、鋭い杖先を長い顎髭に隠されていた喉元に突きつけた。


「無限の命を持ち、永遠を生きるとしてもですか――導師?」




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