(しまった。囲まれた――)

  

 彼はすばやく戦略を練ろうとしたが、起き抜けの頭がうまく働かない。 

 あれから二時間は眠っただろうか?

 ウェニの木に身を隠したまま耳を澄ます。


(一、二……十はいないだろう)


 足音から、少なくとも四、五匹近づいてくるのが分かった。術を操る魔物の気配はないが、この体ではとても無理だ。

 自分の迂闊さを責める暇もなく、幾ばくかの眠りの後も疲れきった身体を剣に引っ張られ彼は立ち上がった。

 それは何時でも、不思議と重く感じることはなかった。


(もう、どうにでもなれ)


 彼は地面を蹴り、魔物の群れ目がけて飛び出した。


「これ――落ち着きなされ!

 かような形【なり】をしておっても、儂らは――人間たちの言う魔物ではないのじゃ。」


 低い、かすれた声だった。

 

「何だって?」 


 隙をついて一人が少年の腕に飛び掛ってきた。

 その軽さ、小ささに面食らった彼は敵を振り払うことも忘れた。


「おお、これが……素晴らしい名剣じゃ。」


 彼の膝の辺りから何本か無骨な手が伸び、おずおずと剣の刀身を撫でる。

 その途端、少年の緊張が解けた。


魔物ならこんな風に聖剣に触れる事はできない。

少なくともこの奇妙な生き物たちは敵ではない……。


 少年の安堵を、変化を見て取ったのか、四方八方からドワーフ小人が現れた。

 身丈ほどもある彼の手にした剣を前に、感嘆の声が上がる。