「どうか私もお供させて下さい。そのような細腕で魔獣や邪竜と戦うなど、
いや失礼ながらそのお顔色、二晩三晩ではとても、旅の疲れも癒されまいかと……」
「奴らの狙いはこの剣です。すぐにも追ってきます。ここにも長くは居ません。」
喘ぐように少年は司祭の歎願を遮った。時間が無い。
立っているのもやっとの疲労にも関わらず剣は血と汗が染み込んだ服よりも重くはなかったが、
痺れか寒さでか手の震えが止まらなかった。
伝承の『英雄』は、まるで目を覆いたくなる程に――否、『自分』はこんなにも無力であったのか?
暗夜に蠟燭を頼りにあれ程学び祈り、学友に競り勝ち上り詰めた大司祭の地位。
何の為に、私は今この祭壇に立っているのか?
就任以来頭角目覚ましく、早くも歴代最も才覚ある司祭と呼び声高いサイロムは
苦渋に満ちた顔を隠し衣を蹴るように祭壇の裏の小部屋へと向かい、最奥に仕舞われていた古い小箱を開いた。
「ならば、ならば、せめてこの外套を。
これはこの地に伝わるシスランの糸から織られたもの。
夜の寒さも多少なりとも凌げましょう。」
いつか現れる救世主のために織られた、純白の外套。
妙なる恒久の平和への、救いの願いを託し、彼の人の肩にこれを掛ける日をどんなにか待ち望んでいただろうか。
それは賢者以前、古よりの神に仕える者としてこの上ない誉れではなかったか。
空気のように軽く柔らかい外套を纏い、少年の頬には苦い味がした。
サイロムは、それが彼には大きすぎると知った。
細い肩に過ぎる荷を乗せた清廉な両手は、差し込む月光に虚ろを掴んでいた。