「其は風の石……人間が?」
胡乱げに竜が頭を擡げると、金色の双眸とその間にもうひとつ光るものが――額に赤い石が埋っているのが見えた。
「我はお主の同族にとうに牙を抜かれ、毒も炎も吐かぬ。
老いたる竜一匹懲らすとて、然したる栄誉が得られるとも思えぬが」
竜は人語を巧みに操った。その声は洞窟に殷々と響いた。
金竜の放つ暖かな光に照らされていると、次第に少年の警戒心は微睡むように熔けていった。
まるで、懐かしい養祖母の家の炉端で、幼なじみと取り留めのない会話をしているような気さえした。
……そう、二人は村祭りの衣装を縫っている、
リンドは「一年で14ファネスも背が伸びるなんて、アヴァディンの樹じゃないんだから」と
ぶつぶつ言いながらも裾直しをしてくれて……アヌク婆ちゃんはすぐ側で笑いながら、
リンドのドレスに彼女の好きな花模様を縫い付けている。
似合うだろうな。
父さんとニルセには悪いけど最初に踊るのは僕だ。
ああ、僕が劇で演じる英雄じゃなくて、本物の英雄だったらどんなにいいか。
光り輝く鎧を着て、伝説の剣を持って――
( 剣 )
彼が左手をびくっと震わせると、目の前に宝石があった。
その燃えるような赤い色のほかは、ヨールが少年に授けた石とよく似ていた。
(ああ、そうか)
今のはこの不思議な竜が見せた懐かしい幻影だったのかもしれない。
彼は柄を握る手を緩めた。
「この剣は……本当に聖剣なのでしょうか」
少年はおずおずと口を開いた。
「斬っても斬っても刃こぼれしないし、錆びないし――」
竜は無言のまま、巨木の幹さながらの尾を揺らし、話の続きを促した。
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