「ごらん、丘の向こうに炎が見える」 


イーヴナスで最も【魔】から隔たりのある場所、 

聖なる樫の森で、囁き交わす声があった。 


「今朝、あの村から鳥達が慌てて逃げてきました。……戦でしょうか?」 


「放っておく事だ」 


何の感慨も沸かない様子で、若者は――彼らは一様に年若く見えたのだが――言った。 


「何れにしろ、邪な炎は我らの森には届かないのだから」 


優美な顔が一瞬歪んだのは、惨劇に胸を痛めためではない。

清浄な空気に混じる殺戮の匂いが鼻についたから、ただそれだけの理由だった。 


彼らの暗緑の瞳は、家々が吐き続ける黒煙を夜が隠すに任せた。