「緑の民よ、僕はこれから、何処に行ったらいいのですか」


「剣が導く処へ。光を掲げなさい。

あなたが解き放った魔は大陸中を覆い始めている。

でも忘れないで、闇夜を照らす松明になれるのはあなただけなのだから」



松明!) 



少年は身体を固くした。

それこそが村の全てを、僕の全てを奪っていったものなのに――。



「この石を持っていきなさい。きっとあなたの助けになるわ」


ヨールの女は自らがしていた首飾りを外し、強張った少年の手にそっと握らせた。

金と銀ともつかない輝きのそれは彼が今までに見たどんな装飾よりも複雑で精巧で、
村の大工や隣り町の鍛冶職人たちを集めても到底作ることの出来ない代物だった。


何らかの魔術で金属を力も加えずに曲げたとしか思えぬ細やかな意匠の中央に、

五月の新緑を封じ込めたような宝石がきらめいていた。



《海より産まれ 地に生き 空に憧れるものたち……》


翠緑の瞳を伏し目がちに詩人は、再びあの歌を詠った。



透き通った歌は薄れ消えてゆく代わりに、森中に染み渡っていった。

聳え立つ樹木は大地を柔らかに覆う草花は、確かに彼女の歌を聴いていた。

村のまじない師も信じ切っていなかった少年にすらそれがはっきりと分かった。



「これは、緑の民……樫《オーク》の一族に伝わる歌。

海より産まれ、地に生き、空に憧れるもの――あなた達人間のことよ……」


ヨールの女が微笑むと、その背の緑から優しい風が吹いた。



これは始まりを告げる風だ、彼はまた、考える前に解った。





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