「この剣は魔物を屠るほどに研ぎ澄まされていく。僕を殺戮へと駆り立てます。

 何度も折ろうとしました。でも、駄目でした。

 もう一本、これと同じ剣があれば、もしかしたら……」


「面白き事を言う。剣の破壊を望むか、人の子よ?

我の吐く焔でも焼き尽くせないものを」


最期の望みを絶たれたかと、少年の視界が一瞬狭くなった。

世界で一番熱いと伝えられるドラゴンの火炎でも太刀打ちできないものを、一体誰が破壊できるというのか?



それでも、彼は諦めきれなかった。


(なぜだろう)



忌まわしくも身体の一部と化した左手にしがみつく頼りない松明の感触を確かめ、少年の額がぴくりと疼いた。



(……ずっと《これ》を棄てて、何もかもから逃げてしまいたかったのに。どんなにか――)


疲労と渇きと喉を埋めるような耐え難い孤独の中で幾度黙想しても知り得なかったが、
ここまで彼を引きずってきた、彼が引きずってきた錆びた重い絶望こそが、何よりも少年を照らし導く希望だった。



それは決して輝かしい光などではなかった。

しかし振り返ると惑い踠きながら付けてきた長い足跡が、軋む運命の輪が刻んだ大きな轍が、

そのまま反転されたかのように、彼自身の歩みを後押しして止まない道を敷いてきたのだった。




「それでは……それでは、僕を【宿命の崖】へ連れていって下さい。

 崖に立ちこめている低い雲の上には、今も古の大賢者が住まうと聞きます」


「賢人は、汝等にとり今や神にも等しい存在ではないのか」


「一部の人々の間では、そうです。イーヴナスで彼を知らぬ者はいません。

こんな詩歌もあります……


 《揺れる宝玉は太陽に 纏いし衣は綿雲に

  靡く髪は流れ 青い命の源に》


小さな声で詠うと、彼は震えた。