「ここです」

若い司祭の持つろうそくの明かりに、痩せた横顔が照らし出された。


(えっ)


クラスの皆がはっと息を呑んだ。

その人は今にも泣き出しそうな顔に見えた。

歴史の教科書の輝かしいイメージとはとても結びつかなかった。



「遥か昔、大いなる災厄の時……

魔物との戦いで傷を負われた英雄がこの寺院に立ち寄られました。
その後、数百年経ってからこの壁画が描かれたと言われています。
今から1500年ほど前の事です。」


「本当にそんな大昔に描かれた絵なんですか? こんなに鮮やかなのに?」

驚いたようにザリアンが言った。


中世期の絵画には退色を防ぐために錬金術師達の秘技が施された、と先週美術史で習ったばかりなのに。

私は少し呆れながら壁画に視線を戻した。


「ええ。まだお若かった伝説的なサイロム司祭は、英雄に祝福と純白の外套を授けられました。

そして、偉大な力と守りとを得た英雄は世界に再び光をもたらされたのですよ。」


地下聖堂に司祭の誇らしげな声が響くのを聴きながら、

最前列にいた私は、肖像の下に何か文字が書き込まれているのを見つけた。





そこにはたった二行、古い綴りでこう記されていた。



かれは問うた 英雄とは罪人の異名ではないのか と


司祭は知った その肩に過ぎた衣を科した事を





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