英雄は地に堕ちた。

そこはまさに聖なる剣を抜いた、故郷を柔らかく包むキルローナンの森であった。


しかし賢者の繰り出す恐るべき魔術に切り刻まれ放り出された彼には、周囲を見渡す事すら出来ず、

懐かしい樹々を認めるどころか聖句や神々の名を口にする力さえ残されてはいなかった。

出てくるのは折れた肋と破れた肺からの悶え苦しむ呼吸と、止まらない血だけだった。


霞んでゆく視界には静かに戦ぐ森の梢と、果てしない青い空だけがあった。








空に剣を突き立てても あの青は引き裂けない


それどころか 雲一つ動かせない


英雄とは なんと無力な存在だろう?


通り過ぎる風には 容易いことなのに



剣は嘲笑うかのように


陽光に反射して いっそう眩しく煌めくだけ




それならば それならば


折れてしまえ


稲妻に打たれ


この体ごと


名前だけの英雄と共に









天の梢と 地の稲妻の狭間で


若き牡鹿よ 今こそ 光の剣を掲げよ



奇しくも預言をなぞる様に為さた、彼の無力と絶望の嘆きに、


遂に「それ」は応えた――





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